映画「ザ・セル」
ジェニファー・ロペス主演、独特の美意識による美しい映像表現が特徴のターセム・シン監督のサスペンススリラー。
小児精神科医のキャサリンは最先端の治療法の研究に携わっている。それは特殊な機材を通して人の深層心理に入り込み、患者の心そのものと直接対話をする治療法だ。
彼女はその方法でエドワードという少年を長きにわたり治療してきたが、なかなか前進の兆しが見られない。キャサリンは今まで通りエドワードの精神に入り込むのではなく、自分の精神にエドワードを招き入れるという提案をするのだが、前例のないこの方法は危険を伴うものだった。
そんな中、キャサリンに仕事の依頼が舞い込む。連続殺人犯カールの精神に入るという仕事だ。カールが誘拐し監禁している女性の居場所が明らかになる前に彼は昏睡状態に陥ってしまったのである。
キャサリンは意を決して猟奇殺人犯カールの精神世界に入り込む。
そこは異常なまでの狂気と快楽に満ちた世界だった。カールはそこで王として君臨し、キャサリンに牙を剥く。今までカールが殺めてきた女性たちの姿、彼の妄想の集積、おぞましい光景の中からキャサリンは監禁場所のヒントを探し出していく。
しかしヒントを探していく中で、キャサリンはカールの狂気の中に純粋な少年時代のカールを見出す。その人格は狂気のカールの世界に閉じ込められているのだ。キャサリンはその純粋な人格を救うために、彼女の精神世界に招き入れる禁断の手段を選ぶのだった。
この映画の見どころは何と言ってもその美しい映像世界である。監督のターセム・シンはもともと映像クリエーターとしてCM制作等で活躍していた。ターセム独特の造形感覚には古代文明の様式美に通づる緊張感があり、殺人犯カールの異常な精神世界に一種の品位を与えている。その品位こそがカールの世界のおぞましさを増幅させているのである。
ストーリーがシンプルである分、世界観の美しさが十分に堪能できる作品である。