映画「CUBE」
今回はカルト的人気を博したサスペンススリラーをご紹介。
一時期、一世を風靡した映画「SAW」で広く認知された「ソリッドシチュエーションスリラー」というジャンル。その先駆けとされているのがこの映画です。
年齢も職業もバラバラの男女数人が、サイコロ型の謎めいた部屋の中で目を覚まします。お互いに面識はなく、その部屋に連れて来られた目的も全く分かりません。
自分達を閉じ込めたのは何らかの組織なのか、どうやってここへ連れて来られたのか分からないまま、彼らはその空間から脱出する方法を探します。
その部屋は立方体の形をしていて、6面全てに扉が付いています。そしてその扉をくぐった先にはまたしても立方体の部屋が続いており、同じように6面に扉が付いています。それが延々と連続し、迷路のようになっているのです。
更には部屋の壁に罠が仕掛けられていることがあり、部屋に入った者を死に至らしめるギミックが仕込まれています。彼らは生き残りをかけて、互いに協力しながら出口を探します。
やり取りを重ねながらキューブ内を移動していく中で、お互いの特性や職業を知っていきます。警察官、医者、エンジニア、数学専攻の大学生、知的障害者、脱獄犯。それぞれが自分の得意分野を生かしながら出口への手がかりを見つけていきます。
そんな中、初めからやる気も協力の姿勢も見せず諦めモードだったエンジニアの男が重要なことを白状します。
「私がこの施設全体の外壁部分を設計した。」
何者かに依頼され、外壁のみの設計を行ったこの男。中に何を作るのか、何の目的の物なのか知らされず、疑問にも思わなかったと言います。そして、何かを出入りさせる目的がそもそもないため、出口は存在しないと話します。初めから気力をなくしていた理由はここにあったのです。
一体何の目的でこのキューブは作られ、どうして人を入れる必要があったのか、一人がその男に問います。
「目的?そんなもの始めから無いんだよ。何かのきっかけがあったにせよ、それがあらゆる人に役割分担され、巨大な計画と化した地点でもう誰も目的なんて覚えていない。黒幕なんか存在しないのさ。そして使わなければ無用の長物になってしまうから、我々が入れられただけの話なんだ。」
出口はないと話す男。しかし入れたのなら出られるはずだ、そう信じて一同は必死に出口を探します。
この映画が描きたいのは人間社会。キューブは社会の象徴で、閉じ込められた男女は人類の縮図だと考えています。出口が分からない不安や、危険な罠の恐怖、同じところを行ったり来たりする徒労感。その中で人々は互いに疑い合い、自分が助かりさえすればと生存本能をあらわにしていきます。
罠にかかった時のグロテスクな人体の表現や、人の心が徐々に崩壊していく様が映像的にも心理的にも恐ろしい映画ですが、僕が一番印象的だったのは先程のエンジニアの男が放ったセリフ、
「目的なんてもう誰も覚えていない。黒幕なんか存在しない。」
言語などもそうですが、時代毎に常に変化していくが元々の語源はほとんど知られていない。気付けば意味合いすら大きく変わってしまっている。このような事態が社会の中にも多く見られると感じます。
無数の歯車は見えているのに全体像は見えない。
誰もが直面している問題点なのにも関わらず、自分が言い出しっぺではないという理由で誰も責任を取ろうとしない。
今この時代にこの映画を観ると、現実の様々な
問題と重なり、奥行きが出る気がします。
結末は含みのある意味深な終わり方です。
単なるハラハラ系ムービーとしてではなく、この映画の「狙い」について考えながら鑑賞すると違う味わいを見つけることができます。